博士の愛した数式:レビュー

涙なしには読めない

瀬戸内海に面している小さな町。
10歳になる息子とアパートで暮らす、30前半の女性は家政婦として働いています。

そこで、家政婦として雇われた先では、64才の数諭専門の元大学教師がいます。
この大学教師は、47歳の時に交通事故にあい記憶を蓄積する機能を失ってしまい、80分しか記憶をとどめることができません。

雇い主は同じ敷地内に住んでいる、元大学教師通称「博士」の義理の姉です。
月曜日から金曜日の午前11時に家に来て、昼食を食べさせて掃除、買い物、晩御飯の用意をして7時に帰るという仕事でした。

とにかく注文内容は、「誰もがやっている日常生活を送らせてあげてくれるなら文句はない」とのこと。
博士が住んでいる離れは、トイレの窓にはひびが入り、勝手口のドアノブは半分獲れています。
そして博士は背広を着てネクタイをしめてきちんといますが、やはり記憶はないらしく毎朝初対面の挨拶を繰り返します。

箪笥には、スーツが3着、ネクタイが3本、ワイシャツが6枚しかありません。
食事は一口ごとにこぼして、何も命令することはなく数学雑誌の鑑賞問題を解いています。

博士はスーツにメモクリップをつけていますが、その中には数字や記号、言葉の断片が書き綴られています。
その中のメモの一つに、「私の記憶は80分しか持たない」というメモもあります。

博士の愛した数式のレビュー

(ネタバレを含みます)
タイトルにある「数式」は、登場人物である息子だろうという推理がされています。
博士は、記憶をとどめておくことができないながらも、家政婦の息子である通称「ルート」を愛したのです。

博士は数学の天才、数学は考えれば考えるほど答えに近づける文学です。
でも、記憶は80分しか持たない。

博士は一生懸命に、メモを使ってその日の記憶をとどめておく努力をします。
家政婦はそんな博士に心打ちひしがれ、記憶をとどめておけないながらも一生懸命にルートを愛そうとしてくれる博士に感銘します。

このお話の結末は感動ばかりです。
涙なしでは読むことができません。

ですが、「博士の愛した数式」では、肝心の物語の結末は書かれていないんです。
つまり、「どう思ったのか」「どうしたかったのか」「実際は?」という内容です。

沈黙は金、ということわざがありますが、やはり一番大切なことは描かないこと、それをくみ取りながら読むことが大切なのだと実感させられます。
そして博士と家政婦との間で重要となる「メモ」ですが、メモも一つ一つに伏線があり、中々感心します。

無条件の愛とは

よく、子供には無条件の愛情で接することがイイと言われますが、無条件の愛とはどのようなことなのでしょうか?
いきなり来た見知らぬ子供を、愛すことはできますか?

自分の子供だからこそ、無条件で愛することができるのではないでしょうか。
博士は子どもを思う心が、とても素敵です。
そんな、無条件な愛情が、一番魅力的な作品なのではないでしょうか。

数式って、すごく無機質です。
数学はたんたんと考えるだけで、答えが導き出されます。
ですが、博士が教える数式は「いきいき」としています。

時にはメッセージが込められていたり。
謎めいていたり。

博士の義姉も、ひそかに博士のことを思っていたことにも涙が出ます。
数学が苦手な方にも、この作品は無条件に心の中に入ってくる作品です。

数学嫌いな方にもぜひおすすめしたい。
苦手な数学を好きになるなんて、一瞬です。
「謎」と「解く瞬間」がカギであり、博士のようにいきいきと数学が解けるようになったら、多くの感情と数学の知識を吸収することができるでしょうね。

博士は言っています。
数式は「美しい」「愛すべきものだ」と。
この言葉の意味や、家政婦の思いを読み取ることができたら、「博士の愛した数式」を攻略できたといえますよ。